第28回与五沢矯正研究会 研究報告


舌側からの矯正治療について

−舌側からの矯正治療に必要な診療システムのバランスについて−

歯ならび矯正歯科医院(愛媛県新居浜市) 和島武毅


   舌側からの矯正治療は, 1970年代に藤田欣也先生が唇側にブラケットを装着する通常
の治療法から, 舌側にブラケットを装着し治療を行うという方法を発表したことに始まる。
 舌側からの矯正治療において, 術者側で治療上問題となる点は, 歯の舌側面の形態が
結節や隆線など複雑な形態を有しているためブラケットの正確なポジショニングおよび
リポジショニングが困難であること, ブラケットスパンが短いためワイヤーの屈曲あるいは
装置の脱着など手技的に煩雑であることなどがあげられる。そのため, 唇側からの矯正治
療と同じようにワイヤーベンディングでブラケットポジショニングカバーするのは極めて困難
である。
また, 患者側の問題点としては, 装置の違和感, 口腔内の衛生管理などがあげられる。
 それらを改善するために矯正材料の開発が進み, 治療上においてもブラケットの舌面
へのボンディングに際し, ワイヤーの複雑な微調整を可及的に軽減できる再利用可能な
レジンキャップを製作することで, ブラケット脱落時にも対応できる種々のインダイレクト
ボンディング法が考案されている。当医院においても, エラスティック テクニック
インダイレクト ボンディングシステム(E.T.I.B.S.)を応用し良好な治療結果を得ている。
 しかしながら, 矯正治療に十分な技術と経験がある術者であっても唇側からの矯正治
療と同等の治療結果が得られないとされる舌側からの矯正治療は, 歯科矯正の環境にお
いて患者, 術者に対して正確な情報が伝わらず矯正治療の環境を混乱させ, 治療水準の
低下を招く一因となっているのが現状であるように思う。舌側からの矯正治療は, 単に
ボンディング術式, 矯正治療術式などの治療体系のみならず, 医院を取り巻く環境や診
療システム全体のバランスを考慮する必要がある。
 今回, 今まで経験した舌側からの矯正治療を踏まえ, 症例を交えながら考察すること
で矯正治療の一助になれば幸いである。